腕には自信がある虎之助だが、この屋敷の当主を斬る気はない。

しかし、その人物がどれほど強いかについては、興味をそそられる。

それゆえ、真っ当な手順をふんで屋敷へ入ることはせず、このようなやり方で屋敷に忍び込んだのだ。

虎之助は、片膝をついた状態から立ち上がる。

相手が噂に違わぬ達人であれば、すでに虎之助の存在に気づいているとしても、おかしくない。

屋敷に向かってゆっくりと歩を進ませるが、庭に誰かが出てくる気配は、まったく感じない。

今日、ここの当主は屋敷にいることは、事前に調べてある。

がっかりする虎之助だが、すぐに気を引き締める。

(いや、もうとっくにこちらの気配に気づいて、玄関のそばで待ち構えているやも知れぬ)

なにせ、ここの当主は…と、まだ見ぬ相手について思索している時だった。

突然、虎之助の背後から声が響いた。


「用があるなら、表の門から入られよ」