「あっしは、江戸の宗矩(むねのり)様に飼われていた者にございます」


連也の目が、大きく見開かれる。


「江戸…宗矩? 但馬守(たじまのかみ)か!?」

「さようでございます」


さすがに驚きを隠せない。


柳生但馬守宗矩――

利巌から見れば、叔父にあたる人物である。

家康をはじめ、徳川三代にわたって仕えた柳生家最大の出世頭だ。

「柳生」の名は、この人によって有名になったと言って良いだろう。

ただ、柳生新陰流の正統を継ぐのは、彼ではなく利巌である。

その宗矩が、いま連也の目の前にいる藤吉と関係があることが、連也には不思議に思えてならなかった。


「江戸にいたおぬしが、何用で尾張に?」


藤吉の顔に、やや焦りの色が見える。

話すにしても簡潔にまとめることが、彼にとっては難儀なのだ。


「長い話になりますが」

「かまわぬ。聞こう」


幸い、まわりには誰もいない。