な、なんて世間知らずなのか!
アナタ、営業さんでしょうが!
奪い合いになったけど、なんせリーチが違う。
「ほ、ほんとに…!」
「ナカも見して」
「ヤッヤメテ……!ホント、ホントウに、やめ……」
ハッとした。
距離が……ちか……
笹原さんの腕の中にジブンがいた。
いっしゅんカラダがカタマった後、すぐに飛びのこうとした。
だけど、後ずさった先に笹原さんの手があった。
引き寄せられて、顔が胸板にぶつかる。
ど、どうして???
「俺のことキライだろ」
心臓が飛び出そうになった。
返事が出てこない…
「なんでか言えよ」
笹原さんの鼓動と体温が伝わってくる。
息がはきだせない。
笹原さんは返事を待っている。
だけど、こんな密着している相手に、なんて言っていいか……
「キライなヤツにもこんなことするなら、スキなヤツにはどういうことすんだよ……」
ゾクッと、
雷に撃たれたように、カラダの芯がしびれた。
思わず胸を押しのけようとした。
だけど、逆に手首をつかまれ押さえ込まれる。
目が合った。
真剣な目に吸い込まれそうになる。
「聞いてんだろ」
シツモン二個きた。
その前に、アタマがフリーズ。
暖かいものが、唇にふれた。
キス……してる。
なんで?
逃げなさいよ。
なんで?
相手の体重が自分の方へ移動してきた。
抱き込まれるようにカーペットに横たわる。
嵐のような展開に、意識がとんだ。
完全に。
「なにか言えよ」
相手の唇が、耳へそして首筋へ移動してゆく。
体重がずれて、肺にとどまっていた空気が、ふっと外へ漏れた。
「あ……っ」
「付き合ってるオトコいないよな?」
「んっ……あ……っ……」
「いても、奪う。決めた」
た、食べられてる……
ふたたび気が遠くなったその時だった。
カーテンの外がするどく光り、カミナリが落ちた。
「きゃあ!!」
耳をふさぐ。
ようやく、カラダに指令が届いた。
「ご、ごめんなさいっ!」
停電してる。
笹原さんの表情はみえない。
「大丈夫……」と言う笹原さんの声をさえぎった。
「ダイジョウブじゃないんです……!突発音がダメで、だからカミナリも笹原さんも……こわい!」
言っちゃった…!
「俺が大きな声だすから?」
またっ……!!
またカミナリ!!
「モウシワケナイのですが、大柄な男性も……きゃああっ!」
耳をふさいで身をちぢめる。
耳栓、どこかにあるけど暗くて探せないよ。
ふんわりと背中に手が添えられた。
そこだけ、暖かかった。
カレシ欲しいな……と思った。
自分がさみしいと思ってたんだって、はじめて分かった。


