ひさびさに社食で食べる。


はぁ……来なきゃよかった……


「オタサーのヒメ」って声が、そこら中から聞こえる。


「ご一緒してイイですかぁ?」

見上げると、可愛い女の子二人組が首をかしげて、笹原さんにたずねていた。

「も、もちろ…」
「遠慮して」


オイオイオイオイオイ。

もうヤダ、この人。



少しでも近づきたいって、ただそれだけなんだよ。

断りかたってものがあるでしょ。

人気商売なんだから!



…………ちがった。

ただの営業さんだった。





女の子たちが、冷たい目を私に向けて立ち去る。



デスヨネー…



思わず、ため息をついた。


「ナニため息ついてんだよ」


おお、コワイ。定食に集中しよう。




「新しい部署、慣れた?」

「慣れた…とまでは。先輩についてくのが精いっぱいです」

「まさか資格持ってるとは思わなかった」

「取ったのは最近ですけど」

「部長が言ってたよ。三十万くらいかかるんだろ?」

「まぁそれくらいですね」

「凄いと思った、ホントに」

「あ~…いや、どうも」


この話あんまりしちゃうと、動機を聞かれそうで怖いな…


「しゃ、社食はいいですね。温かいし、美味しいし…」


ここ、久しぶりに来たよ。

別館から少し遠いし、時間も不規則だから、ついついコンビニで買ってきちゃう。




けれど、笹原さんはその手には乗らなかった。


「あのこと話したんだ?」

「なんですか?」

「好きな芸能人……」


ああ、そっか。
秘密にしておいてくださいとか、言ったよねワタシ。


「すみません。飲み会に行ったら飲みすぎちゃってポロっと」



笹原さんの箸が止まった。


「なに!?飲み会!?」




カラダがビクッとした。



笹原さんが、ハッとした顔をする。



ダメ。

悪気はない。

アンタあやまんなさいっ!





「スミマセン…」

「イヤ、ちがう。ごめん」

「どうぞ、あの、お気になさらず、ご自分のあのぉ…」


言葉がでない。

何を言ってもイヤミに聞こえそうで。




また女性が、トレイを持って近づいて来た。


「さっさはらく~ん!ココいーい?」


私は、すばやく立ち上がった。

「どーぞどーぞ!」


笹原さんもそびえ立った。


「ちょっと待て!!」




ひゃぁっ


また笹原さんが、シマッタという顔をする。



コワイ!


…って思うのもシツレイ!

どーしたらいいの!?




だぁかぁらぁ…

関わらないのがイチバンなの……




「うう…もうカンベンしてください」




女性が笑った。

「なんでゴーモン受けたような声出してるの?」


構わずにトレイを持って、イスの間を通り抜ける。

背後から、女性の声が追い討ちを掛ける。


「笹原くん、嫌われてるんじゃないの~?」


もおおおおうっっ!

その通りだけど、なんて人情味のないヤツ。

これだから、本館はヤなの!




『オタサーのヒメ』?

おおいにケッコウ!

こんな魑魅魍魎の館!コッチから願い下げだってんだ!