─── 事の発端は、いまから遡ること1時間前。



学校帰り、私はいつものようにこの場所に立ち寄り、ケータイを操作していた。



サラサラと風が吹き、草が音を立てて笑う。



頭上を覆うのは、ピンク色が鮮やかな1本の桜の木。



私は街を見渡せるこの小高い丘が大好きで、今日も丘の頂上に横たわった大木の上に座っていた。



ここは私しか知らない秘密の場所。



そして、家に帰るまで時間を潰せる場所。



今日もここで、メールを打つ。



胸の中に秘めた思いを、吐きだせない思いを、全部メールに書き込んで。



メールを打ち終えると、私はそれを下書きへとしまった。



未送信フォルダには、こうしてたくさんのメールが溜まっている。


その中のひとつとして、宛先が書いてあるメールはない。



すべての作業を終え、ケータイをブレザーのポケットにしまうと、なんだか急激に眠くなってきた。



「ふぁぁぁ」

っとあくびをひとつした私は、抗うこともなく眠気の波に襲われた。