「まさか花の家まで、この距離保ったまま行くんじゃねぇだろうな」
「えっ?」
おずおずと向坂くんの隣に歩みを進めた私は、思わず向坂くんの方を仰ぎ見た。
私が足を止めたことに気づいたのか、向坂くんの足も止まる。
「いいよっ、お家までなんて」
一緒に帰るって、同じ通学路のとこまでだと思ってた……。
「は? なんでだよ。
俺が送るっつってんだから、送る」
「ううん、でも、だめ。
お願い」
いくら向坂くんでも、お家まではだめなの。
だって……
必死に訴えかけるような私の目と、困惑したような向坂くんの目が、静かにぶつかりあった。
と、そのとき、静止を破るようにプルルルと突然電話の鳴る音が聞こえてきた。
音がしたのは、向坂くんの方から。
ポケットからスマホを取り出し、電話に出た向坂くん。
「もしもし、シノ?」