「ナオちゃん…少しで良いんだ」
チヒロさんはそんな私の答えに困ったように顔を歪ます。
「ケイゴのお父さんから話を聞いて思ったんです。キョウヤの決断はきっとすごく大きな事で、そして揺るぎないものなんだって…」
私だって、もしも元に戻れるなら…もちろん戻りたい。
戻りたいに決まってる…
でもダメなんだよ。キョウヤの邪魔だけはしたくないの…
私を求めてくれた大切な人だから…
それが例え自分が苦しい結果になったとしても…。
「だから私は…キョウヤの決めた事を応援しようと思います」
膝に落としてしまった漫画を手に取り目の前のチヒロさんに小さく笑う。
その瞬間、パチンッと乾いた音が辺りに響き…そして頬に軽い痛みがジンワリと広がる…
一瞬何が起きたのか分からなかった。
自分の頬に触れるとそこは少し熱を持っていて、チヒロさんの隣にいたケイゴに叩かれたんだとやっと気がつく。
叩かれたと言っても本当軽く、軽くパチンって手がぶつかった程度。だけど何故かその痛みはもの凄く重たくて心に響いてきて…それはきっと目の前のケイゴがもの凄く悲しそうな顔をしていたから…。
「おい!ケイッ」
そんなケイゴの行動にチヒロさんが焦ったようにケイゴの名前を呼び、倉庫中の皆んながビックリしたように目を見開く。
「…さっきから黙って聞いてれば」
そんな言葉から発せられたケイゴの声は少し震えて聞こえて
「この間からよ、仕方ないとか応援するだとか…お前だけが辛いと思ってんのか、お前だけが我慢してると思ってんのか。キョウが好きでお前を手放したと思ってんのか!キョウが辛くないと思ってんのか!!」
ケイゴの怒鳴り声が倉庫中に反響し、そして何とも言えない雰囲気を作り出す。
「揺るぎないから何だ、決断が何だ。他の奴らの生活がかかってるから何だ。じゃあお前ら二人は幸せになっちゃいけないのか、お前らは一生我慢して生き続けていかないといけないのかよ。違うだろ!そんな事あるわけねェ!そんな事あっちゃいけねェ!そんなこと俺達が絶対させねェよ!!」
「……ケイゴ…」
「まるで全部理解して分かったみたいな事言いやがって…」
「……もう…良いの…」
小さな言葉を吐き出すも、ケイゴは座ったままの私の両腕を思い切り引っ張り立ち上がらせると
「じゃあ何でそんな顔してんだよ!何でそんな今にも消えちまいそうな顔してんだ!!お前にはキョウが必要なんだろ!そんでキョウにもお前が必要な事くらい分かってんだろうが!!!」
今にも溢れ出てしまいそうな涙を必死にこらえた。
唇を噛み締め瞳をギュッと閉じた。
それでもやっぱり頭に浮かんでくるのは…
優しい笑顔を私に向けてくれるキョウヤの姿…。
「言えよ」
「……」
「言えッ」
「……」
「キョウに会いたいって言え!!そしたら俺達が何とかしてやる!!!」



