ニコラスの短い休みが終わり、私は一人で退屈していた。出かけてもドイツ語がわからないので、道に迷って帰って来れなくなったらーなどと考えたら、どこにも行けなかった。

「一日中一人で暇だろう?ごめんね。」

「いいの、のんびりしてるから。」

「明日は公演があるんだけど、もし良かったら聴きに来ない?」

「一人で大学まで行けるかな?」

「大丈夫、ここは意外と英語も通じるから。」

「本当?」

「うん、みんな親切だし、留学生も多いから。助けてくれると思うよ!」

「何時から?」

私は勇気を出して、外出することにした。



翌日、言われた通りに大学のホールへやってきた。ニコラスは何番目に演奏するのだろう。
とりあえず、会場へ入り、適当なところへ座る。

ドイツ語でナレーションが入った後に、演奏者たちが舞台に出てきた。何組かの演奏を聴き、最後の方にやっと彼が登場した。

「4人いる…。」

弦楽四重奏だ!曲は、ボロディンの第2番、ニ長調。流麗で、聴いていて心地よい。
そういえば、私が初めて聴いたニコラスの演奏もボロディンのものだった。
彼の美しい音は、その美しさに磨きをかけて旋律を奏でる。

「素敵…。」

公演が終わるとニコラスがやってきて、仲間を紹介してくれた。

「やあ!写真で見たよ!ニコラスの自慢の彼女だね!」

「僕はもうクリスマスに会ったよね。」

「本当に綺麗だね!」

私は気恥ずかしくて、照れてしまった。しかし、か細い声でこう言った。

「フロイト ミッヒ。 イッヒ ハイセ カナミ。」

「ドイツ語、勉強したのー?」

ニコラスは驚いた顔をして言った。

「これが、私が話せる唯一のドイツ語。」

まわりのみんなは英語がわかるので、爆笑の渦に包まれた。



その日以来、私は一人で外出する気になった。

「ねえ、今日は、前に連れて行ってくれた丘に行ってきたの。」

「どうだった?」

「お天気が良かったから、とても綺麗だった!相変わらず変わった建物が建っていてね、ユーゲントシュティールっていうものなんですってね。それから、教会では聖歌が歌われていてね、あとはー、可愛い歩行者用の信号機も見つけたの!」

「アンペルマンのことかい?」

「そういうの?可愛い男の子の信号機!」

「旧東ドイツで使われていた信号機なんだ。」

「へえー!今度写真を撮ってこなくちゃ!」

「お土産店に、モチーフの小物もあるよ。」

「行ってみなきゃ!」

「随分と行動的になったね。嬉しいよ。」

ニコラスは本当に嬉しそうに言った。

「そうだ、今度の休みは一緒にどこかに行こうか?」

「そうね!せっかくドイツに来たから、ノイシュヴァンシュタイン城へ行ってみたいな!」

「え?他にもいろいろあるのに、なんでそこ?」

「だって、素敵なお城でしょう?」

「そうかな?あれは鉄骨製だよ?」

「え?」

ドイツの歴史に疎い私は、何のことだかさっぱりわからなかった。

「でも、旅をするのは賛成だから、行ってみようか。」

「やったぁ!」