「実は、今日はある詩集を持ってきたんだ。」

「また難しい話?」

「いや、これは難しくないと思うよ。」

「聞かせて?」

「イチョウって日本にもあるだろう?」

「何?」

「辞書で調べてみて。」

私は電子辞書を開く。

「えーと、銀杏ね!」

「あの葉は真ん中に切れ込みが入っているね?」

「うん。」

「ゲーテは銀杏の葉について、詩を書いているんだ。」

「どんな詩?」

ニコラスはドイツ語で語ってくれた。

「全くわからないけれど、響きが綺麗ね。どういう意味なの?」

「この葉は、一枚が裂かれて二枚になったのか、それとも二枚が相手を見つけて一枚になったのかー。私は一枚の葉であり、あなたと結ばれた二枚の葉でもあるのですよ。」

「ロマンチックね。」

「でしょう。」

「全文読んでみたいな。」

「英語のもあるよ!現代文だから、平気でしょう?」

「試してみる。」

思ったほど難しい単語は使われていなかった。

「心が豊かになるのね。」

「そう、美しいものに触れるとねー。触ってもいいかな?」

彼が私の長い髪を撫でる。心地よい安心感。

「僕もまた、一枚の葉であり、二枚の葉だよ。」

耳元で囁く彼の声が、くすぐったい。

向かい合うと、暖炉の光が瞳に映っているのが見えた。この人なら、大丈夫。

「私は、あなたのもの。」

「僕もだよ。」

彼はゆっくり立ち上がって、私の手を引きながら寝室へと移動した。