久しぶりにコンサートに来た。

「楽しみだな。僕は7番が好きなんだ。聴くのも、演奏するのも。」

「明るくて、楽しい曲だもんね。」

喜びに満ちた、心を浮き立たせるようなリズム。失恋や体調不良や戦争を吹き飛ばすかのごとく、湧き立つエネルギーを感じさせる交響曲。

「ねえ、僕は音楽に出会えて良かったよ。嬉しさも、辛さももたらすけど、その全ては喜びに繋がっていると思うんだ。」

「ニコラスー。」

「だから、僕はドイツで勉強し続けるよ。奏美も奏美のやりたいことをするといいよ。目標があるなら、それを目指すんだ。誰に何と言われても、自分の信念を曲げないで。」

「でも、私ー。」

「君には無限の可能性が眠っているよ。起こせるのは、君だけ。」

「私、わからないの。自分が本当は何をしたいのか。アメリカに行ったって、上手くいくとは思えない。」

「大丈夫、今まで上手くやってきたじゃないか?」

「私はみんなに守られて、助けられてここまで来たの。それなのに、みんなを失うなんて、一人で知らない土地に暮らすなんて、できるかどうかわからない。」

「誰もいなくなったりしないよ。みんな、いつだって君の傍にいるさ。心の距離はいつだって近いんだから!」

「私、ドイツへ行きたいの。あなたの傍にいたいの。」

言ってしまった。

「僕も一緒にいたいよ。でもね、人生は一度きりだよ?よく考えて決断してね。」

「うんー。」



コンサートが終わった後、私たちは展望台の公園に来た。ブランコは相変わらずキィーキィー軋んだ音を出す。

「さっきは辛い言い方をしてごめんね。」

「平気。その通りだから。」

二人でブランコに腰掛けてコーヒーを飲む。

「私、ドイツには遊びに行くね。」

「うん。」

「1ヶ月くらい、泊まってもいい?」

「大歓迎だよ。」

「その後ね、日本に戻って、大学に行く。」

「アメリカは?」

「私、もっと日本のことを勉強してみたいの。海外に来て、自分の国のことをあんまり知らないことに気がついてね。それから、ドイツ語の勉強もするね。英語で習うより、理解できると思うの。」

「急にどうしたの?」

「急じゃないの。本当はずっとわかってた。自分の無知さも、未熟さも。だから、再スタートを帰国して切りたいの。」

「え?」

「日本にだって、希望があるような気がして。私は希望を見つけたくて、新しい国…アメリカに期待してたんだよね。日本でも、この国でもどうにもならないことを、違う国でやろうって。でもね、気がついたの。」

「自分の中で、意見がまとまったみたいだね。」

「うん。」

「おいで。」

「日本に帰ったら、時差は縮まるね!」

「そうだね!」

私たちは抱き合った。冷たい風が体のまわりを取り囲み、雪が降ってきた。

「雪!」

「冷たくなっちゃうね。」

「大丈夫、もう少しこうしていたいから。」

「ねえ。」

「なぁに?」

「好きだよ。」

「私も。」

ニコラスは私の目を見て、もう一度好きだよと言った。そしてキスをした。