木枯らしが落ち葉を舞い上げて、地面を滑ってゆく。冬の足音が聞こえたのと同時に、ニコラスが帰って来た。

「久しぶり、schatz!」

「待ってよ!」

ニコラスはちっとも変わっていない。

今年も冬がやってきた。


無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータの2番、シャコンヌ。音楽の授業中に、ニコラスが弾いているのが聴こえる。もの悲しい旋律、しっとりと、正確に刻まれる音。バッハを聴くといつだって心が洗われる。

私は全く先生の話を聞かずに、演奏ばかり気に留めていた。

授業終了のベルが鳴る。お昼休みはニコラスとミンジーと一緒にサンドウィッチを食べよう。

「終わった?」

彼が引き終わるのを待って、練習室に入った。

「待っててくれたの?入ってくればよかったのに。」

「聴きたかったの。」

「なになに?何か聞き逃した?」

ミンジーが駆けつけてきた。

「ミンジーは何しに来たの?」

「えっ、お兄ちゃん、ひどいよー!」

「みんなでお昼にしよう!」

「奏美は優しいのにねー!」

お昼休みは楽しい。ニコラスがいるともっと楽しい。

「ヘイ!」

楽しい雰囲気をぶち壊しに、先生が入って来た。

「ニコラス、彼女はいるの?」

突然、先生はニコラスに聞いた。

「あー、いますけど…。僕は彼女には相応しくないかもしれません。」

「なんだ、弱気だな!」

「彼女はきっと、世界で輝くために生まれてきた。でも、僕は…。ほら、こうでしょう?」

「そうか、それは、もっと頑張って、彼女に相応しくなれってことだな!」

「そうだろうか。」

「そうだよ。じゃあ、良い昼休みを!」

先生はバタンとドアを閉めて去っていった。

ミンジーと私は何だったのかわからず、ボケっとしていた。

「これが、トニーっていう先生だよ!」

ニコラスは一人で笑っていた。

「なんなのー。」

「さあー。」

訳がわからない二人は、その場に立ち尽くすしかなかった。



ニコラスは私に相応しくないのだろうか。私の方が、相応しくないならわからなくもないけれど、その反対はあり得ない。私は数日前の出来事をひたすら考えていた。

彼がヴァイオリンを弾くのが聴こえる。なんの曲だろう?私の知らないメロディーが流れる。心地いい、優しい音楽。今日もお昼はみんなで食べよう。

「今日も来ていたのね。」

「少しでも一緒にいたいからね。」

楽しいお昼休みはあっと言う間に終わる。終了の合図のベルは、いつだって鬱陶しい。

「ミンジー、次の授業は数学だよ。」

「うげー。」

「ニコラス、また放課後にね!」

「うん。」

私たちが練習室を出た後、ヴァイオリンを奏で始めた。タイスのメディテーション。小説をもとにしてマスネが発表した歌劇『タイス』の中で演奏される間奏曲。甘美なメロディーがニコラスのヴァイオリンとよく合う。

ーその曲、大好き。

私は彼にメールを送った。
ふと、演奏が途切れて、返信が来た。

ー僕も。