今年も冬がやってくる。その前に、秋か…。オーケストラフェスティバルは1週間後に迫っていた。私はオーディションを受けて、見事に合格したらしかった。後は、前日のパート練習で市立オーケストラの首席オーボエ奏者のパトリックに聴いてもらうだけ。練習はたっぷりしたし、大丈夫!

「今年もみんな、よろしくね!」

彼は去年に引き続き、人当たりの良さそうな笑顔で迎えてくれた。

「では、パート練習を始めます。」

練習はのんびり進んだ。しかし、ソロのところへくると誰かがこう言った。

「誰がソロを吹くの?」

「私、練習してきた!」

「えー!私も!」

ちょっと待ってー。

「今、ここで誰が吹くか決めなきゃ!」

「きゃー!私、やりたい!」

そんな騒ぎを一刀両断するようにパトリックはこう言った。

「君たち、オーディションは受けなかっただろう?」

部屋が静まり返る。

「ソロはもう決まっているんだ。」

「私たち、オーディションがあるなんて知らなかったです。」

「そうです!知らなかったので、ここでもう一度して下さい。」

「学校の先生には通達してあるよ。」

はっきりと言う。

「もし、先生から聞いていないのなら、先生を恨んでね。」

「でも、それだとフェアじゃないです!」

またフェア・アンフェアの問題かー。

「では、一度演奏を聴いてから決めよう。お願いできる?」

みんなが一斉に私を見る。明らかに、悪意のある目で。

「はい。」

オッフェンバックの天国と地獄。原題は地獄のオルフェ。そのオペレッタの序曲は日本ではCMソングとして有名だ。オーボエが演奏するのは、第1幕の第6曲、アリステの歌の主題。

聴き終えた全員が口を開かなかった。

「決まりだね。」

パトリックが呟く。

「さあ、みんな、練習に戻るよ!」