「岡野幹事。もう一つ報告があるんだけど、いいかな?」

「真面目なやつ?」

「ああ。真面目も真面目、大真面目」

「なら、いいわ。どうぞ?」

「おお」

 という事で俺は立ち上がったが、肝心のふゆみは座ったままだった。

「ふゆみも立たないと」

「やっぱり、恥ずかしくて……」

「何言ってんだよ。子どもじゃあるまいし」

 と、さっきの仕返しを言いつつ、俺はふゆみの指輪をはめた手を引いて立たせ、肩に手を回して、グイッと引き寄せた。

「ひゃっ」

「えっと、まず桜井さんですが……」

「"ふゆみ"で、いいんじゃね?」

 そう突っ込んだのは、田所だ。

「ふゆみですが、来月からお父さんの事務所で働く事になっています。それと、6月の予定なんですが……俺たち、結婚します!」

 これについては、田所にも速水にも、誰にも話してなかったから、少しの間が開いた後、「うおーっ」とか「おめでとう」とか「ずるーい」とか「合格!」などなど、みんなからたくさんの祝福(?)を受けた。

 ふゆみにとっては、最後の同期会になるわけだが、きっと思い出に残る飲み会になったと思う。

 実はふゆみと結婚したら、俺は今の会社を辞め、桜井グループで働く事になっているのだが、その報告はもう少し後にしようと思う。

 ふと気づけば、ふゆみの足元のお膳の下に、黒い何かがあるのが見える。それと同じく黒のタイトスカート越しながら、ムチッとしたふゆみの太腿に手を置き、それを覗くと、例のリュックだった。”お泊りセット”専用の。

「ちょっ、裕くん」

「これは何かなあ?」

「し、知らない」

 俺がふゆみの耳元に口を寄せ、

「一次会で速攻帰ろうな?」

 と囁くと、ふゆみも濡れた唇を俺の耳に寄せ、

「うん。お願い……」

 と囁くのだった。

(おしまい)