「何が?」

 今度は俺が聞く番だ。

「何がって?」

「何が嬉しいんだよ?」

「だって、裕くんが"好き"って言ってくれたから……」

「言ってなかったっけ?」

「言われてなかった」

「そうだっけ? でもさ、言わなくても分かるだろ?」

「分からないよ、言ってもらわないと」

 ふゆみは甘えるように言うと、口を尖らせた。

 ふゆみって、こんな顔もするんだなあ、と思いながら、俺はある事実に気がついた。

「おまえだって、言ってないじゃん」

 という事に。

「あ、そうだよね。少し言いかけた事はあるけど」

「いつ?」

「あの夜」

 ふゆみが言う"あの夜"とは、俺がふゆみを抱いた、あの夜で間違いないと思うが、そんなのあったっけ? えーっと、

「あ、分かったかも。"裕くんはやさしいね"の、後だろ?」

「ピンポーン! 正解よ。よく分かったね?」

「やっぱりか。じゃあ、今言ってくれよ。ちゃんと」

「わかった。裕くん、大好き!」

「俺もふゆみのこと、大好きだ!」

 俺とふゆみは、どちらからともなく、顔を近づけ、キスをしようとしたのだが、

「防犯カメラ!」

「そうだった!」

 慌てて離れるのだった。

「お母さんに悪いから、発車しようか? 行き先は走りながら決めればいいよな?」

「うん」

 という事で、アクセルを踏み、取り敢えず走り出したのだが、俺にも聞きたい事があったのを思い出した。