「ふゆみは、小さな頃からいい子で、今にして思えば、私たちに遠慮していたんでしょうね。決して贅沢は言わず、遊びにも行かず、勉強ばかりする子でした。私たちは、本当は甘えて欲しかったんですけどね。

 大学を出て、三浦さんと同じ会社に入ったわけですが、私たちとしては働かせたくなかったんですよ。でもふゆみは、社会勉強をしたいから、どうしても働きたいと。言い出したら聞かない子ですから、私たちは渋々承諾しました。

 おそらくふゆみは、将来、私の仕事をサポートしてくれるつもりなんだろうと思いました。私たちとしては、それよりも花嫁修業をさせたかったんですけどね」

 なるほど、それで経理なのか。そう言えば、"令嬢がなぜOLに?"って、誰かが言っていたと思うが、そんな事情があったのか……

「神徳家の御曹司、直也君との縁談が持ち上がった時、ふゆみはすんなり受け入れたんですが、私は複雑でした」

「私もですわよ?」

 すかさず、お母さんから突っ込みが入った。

「すまん。"私たち"だったね? ふゆみが自分の幸せを思ったのなら、こんな嬉しい事はないのですが、今までのふゆみを考えたら、どうにも違和感がありましてね。ま、それについては今日、はっきりしたわけですが」

 ん? もしかして、神徳に俺を引き合わせたのは、案外それが目的だったのかも。つまり、ふゆみの本心を引き出す、という……

 俺はこの人たちを、間違って甘く見てたのかもしれない。同期の連中が知ったら、上原には説教され、速水には言われるんだろうな。

"三浦君、不合格!"と。