俺は神徳の前に立ち、悠然と座ったまま俺を見上げる、今ひとつキャラが掴めない男を睨みつけた。

「今の言葉を撤回してもらいたい。そして、ふゆみに謝罪してくれ」

「嫌だね」

「この野郎!」

 俺は怒りに任せ、神徳に掴み掛かろうとしたのだが、

「裕くん、やめて!」

 ふゆみが素早く立って、俺を止めた。

「止めないでくれ。おまえは悔しくないのか? あんな事を言われて」

 俺はふゆみを横にどかすべく、彼女の華奢な両肩を掴んで言った。

 ふゆみに触れるのは、あの夜以来と気づいたら、あの夜の、ふゆみの真っ白な肢体を思い出してしまった。それと、ふゆみの口から漏れた、甘い吐息を。

「ううん。だって、本当の事だから……」

 ふゆみが放った信じがたい言葉で、俺は妄想から現実に引き戻された。

「嘘だろ? 普通、政略結婚は、お……」

「それは違う」

 間髪を入れず、神徳は言った。俺はまだ、"お"しか言ってないのに、神徳は分かったんだろうか。俺が"親"と言おうとした事が。

「ふゆみは、そんな娘ではありません」

 その”親”のひとりが言ったのだが、お父さん、入ってくるの遅いって……