「せっかく敵地に乗り込んだのに、敢えなく退散しますか。さしずめ、私の肩書きに恐れをなした、といったところでしょうか?」

「…………」

 神徳の、人を小馬鹿にした物言いにムカッとしたが、俺には返す言葉がなかった。図星だからだ。

「貴方は、少しは骨のある人だと思ったのに、残念です。ですが、もっと残念なのは……」

 神徳はそこで言葉を切り、ふゆみに顔を向けた。

「ふゆみさん。貴女です」

「え?」

「私は初めから気づいていました。貴女が私に、まるで関心がないという事に」

「そ、そんな事は……」

 可哀想に、ふゆみは早くも泣きそうな顔をしている。二人の間に割って入り、ふゆみを庇ってあげたい、という衝動を覚えたが、俺はそれをグッと堪えた。

「時間が経てば、私に関心を持ってくれるものと思いましたが、一向に、その気配すらなかった。
 結構傷付きましたよ。私はこう見えて、女性からの人気はそこそこあると思ってますから」

 "そこそこ"じゃなくて、"モテモテ"だろ?

 謙遜したんだろうが、かえってムカつく。金持ちの上に、それだけイケメンなら、さぞかしモテるだろうよ。

 そんな神徳になびかないらしいふゆみが、むしろ不思議なくらいだ。