「これ、はしたない」

「あら、ごめんなさい?」

 父親は母親をたしなめた後、俺を向いた。

「たいへん申し訳ないのですが、ふゆみは来春、結婚の予定なのですよ」

 予想とは全く違う反応だが、拒まれた事には変わりない、かな。

「知っています。でも俺、じゃない、私とふゆみさんは、愛し合っているんです」

 今度も唐突だったからか、両親は2人ともポカンとした。というか、もしかして、この"間(ま)"が、この人たちの通常のペースなのかもしれない。

 少しして、「あらま」と母親は言い、その母親に向かい、

「おまえは聞いてたかい?」

 と父親は聞いた。

「聞いてませんよ?」

「私もだ。失礼ですが、本当にふゆみは、あなたにそのような気持ちを持っているのですか?」

「本当です。おそらくふゆみさんは、ご両親には隠していると思います。自分の、本当の気持ちを」

「ふむ。にわかには信じられませんが、本人に聞くのが確かでしょう」

 と父親は言い、次に母親に向かい、

「直也君にも来てもらおうと思うが、どう思う?」

 と言った。

「そうねえ……よろしいんじゃありません?」

「ふむ。では、そうしよう」

 母親は、楽しそうに微笑んでるように見えるのだが、俺の思い違いだろうか。それよりも……

 "直也"って、誰だよ。あ、ふゆみの婚約者か!?

 ここでそいつと直接対峙するなんて、もちろん想定外の事だった。