ふゆみはコクッと頷き、俺はゆっくり、ふゆみのぽっちゃりとした唇に、俺のそれを近づけたのだが……

「目を閉じてくれないかな?」

 ふゆみは、目をパッチリと開いていた。そのままだと、ちょっとやりにくい。

 ふゆみは「うん」と言って目を閉じたので、俺は再びふゆみの唇に俺の口を触れさせた、のだけど、なんかおかしい。

 例えるなら、マネキンに向かってキスしたみたいだった。薄くて硬い、マネキンの口に。もちろん、実際にした事はないけれども。

「ふゆみ、ふざけないでくれる?」

「え?」

 ふゆみは目をパチっと開き、不思議そうな顔をした。

「おもいっきり口閉じちゃってさあ。それとも、俺とのキスは嫌なのか?」

 ふゆみがふざけてないとすると、そういう事なんだと思う。そうは思いたくなかったが。

 するとふゆみは、今にも泣き出しそうな顔をした。実際のところ、目に薄っすらと涙が滲んだように見える。

「私、わからないの。初めてだから……」