風呂のお湯張りが終わり、俺はふゆみさんを風呂場に案内した。案内するほど広いわけじゃないけれども。

「着替えは何か用意するからさ」

 と俺が言うと、

「あるから、大丈夫」

 と、ふゆみさんは言った。気づけばふゆみさんは、例の黒いリュックを胸に抱えていた。そしてそれを床に降ろすと、ファスナーを開けて中から何やら取り出していった。

 それは、というかそれらは、シャンプーやリンスやボディソープの類いと思われ、つまりそれは……いわゆる"お泊りセット"か!?

 つまりふゆみさんは、いつもとは違ってリュックにお泊りセットを忍ばせており、それは遅くても家を出る時なわけで、こうして俺のアパートでそれを使うのは、事前に計画していた事になるわけだ。

 という事は、酔ってここに来たのも、初めから計画的だったという事になり、本当は酔ってなくて、そのフリをしていただけ、って事で間違いないと思う。

 俺はその驚愕な事実に、唖然としてしまった。言ってみれば騙された事になるが、不思議と腹は立たなかった。むしろ、そんな事を計画したふゆみさんが健気に思え、嬉しくなってしまった。

 ふゆみさん、可愛いです。可愛い過ぎます。

 ん?

 ちょっと待て。という事は、ふゆみさんの"彼氏疑惑"はガセか?

 だよな。彼氏がいるのに他の男と、なんて、ふゆみさんがするわけないもんな。なんだ、勘違いかあ。良かった!

「見たいの?」

「へ?」

「私、服を脱ぎたいんだけど……」

「あ、ごめん。き、気をつけてね?」

 俺は慌ててその場を去った。あやうく「見たい!」と、言いそうになったけれども。