俺とふゆみさんは会社を定時に出て、前にも来た居酒屋で向かい合わせに座っている。

 今夜のふゆみさんには、ちょっとばかり違和感があった。それはどこにだろう、と考えていたら、黒いリュックに目が止まった。

 ふゆみさんが隣の椅子に置いた、彼女の黒いリュックなのだが、そうか、いつもと違うんだ。確かいつもは、小さめなショルダーバッグだったはず。しかもリュックは膨らんでおり、結構重たそうに見える。仕事の書類とかを入れてるのかな。

「ねえ、このお魚美味しいね?」

「え? う、うん、美味しいね」

「私、冷酒に替えようかな。三浦君は?」

「うん。じゃあ、俺も……」

 こっちも違和感の理由だと思う。そう、今夜のふゆみさんは、やけに明るいんだ。よく喋るし、食べるし、アルコールのペースもかなり速いと思う。

「なんか、今日の三浦君、元気なくない?」

「そ、そうかな」

 確かに俺はふゆみさんとは対照的に元気がないと思う。食べるのも、飲むのも進まない。なぜなら、ふゆみさんの"彼氏疑惑"について、どう切り出そうか悩んでいるからだ。

 いや、それ以前に、切り出す勇気を出せずにいる、という方が正しいな。

「やっぱり私といたって、楽しくないよね?」

「え? そんな事は……」

「いいの、無理しなくて。私、自分の事はよく分かってるつもりだから」

「それって、どういう……」

「ごめん。変な事言って。あ、店員さーん!」

 ふゆみさんは手を挙げて店員を呼び、冷酒を2本オーダーした。

 どうやらふゆみさんは、誤解しているらしい。俺に元気がない理由を。俺が退屈してると、思ってるぽい。

 よし、やっぱり聞こう。先延ばししても意味がない。"当たって砕けろ"だ!

 出来れば、砕けたくはないけれども。