なぜか速水は真っ直ぐに俺を見た。眼鏡がキラッと光る感じで、ちょっと怖い。もしかして、幹事である俺に許可を求めているんだろうか。そう思ったから、「どうぞ」と俺は言ったのだが……

「三浦君、付き合ってる彼女はいますか?」

 はぁ?

 突拍子もない事を言われ、俺は自分の耳を疑った。周りの連中も固まったように思う。ちなみに”三浦君”というのは俺の事だ。俺の名前は三浦裕一郎。有名な登山家とは一字違いだったりする。

「どうなんですか?」

 無言で呆気に取られた俺に向かい、速水は詰め寄るようにそう言った。まさか、俺に告るつもりなんじゃ……なわけないか。

「えっと……いないけど?」

 そう。今の俺に彼女はいない。会社に入るまで、って言うか入ってしばらくまではいたのだが、別れてしまった。大学が一緒の彼女がいたのだが、互いに就職して会う機会が減り、自然消滅してしまったのだ。いや、彼女から別れ話を持ちかけられたんだったかな。よく覚えてないや。