ふと、ある事を思い出し、俺は営業職場へ足を運んだ。田所と目が合ったが、今の目的は田所ではない。背中を丸めて何かに格闘中の上原に向かい、「上原」と声を掛けた。

「三浦くん?」

 上原は、すぐにこっちを振り向いた。

「ちょっと話があるんだけど、いいかな。忙しければ、今じゃなくてもいいけど」

「ううん、ぜんぜん大丈夫だよ」

 という事で、俺と上原は営業職場を出て、通路に設けられたミーティングスペースへ入ると、テーブルを挟んで腰掛けた。

「なになに?」

 座るやいなや、上原はニコニコした笑顔を俺に向けた。上原って、そこそこ可愛いし、明るいし、性格もまあまあいいと思う。こんな女の子を好きになったら、楽でいいのにな、なんて思ってしまう。

「大した話じゃないんだけどさ……」

「うんうん」

「この間の同期会の後さ、岡野と話してたよな? 速水をとっちめるとかさ」

「うんうん、確かに」

「それでさ、何か進展とか、あったのかな、と……」

 ふゆみさんについて、必死な感じが出るとカッコ悪いと思い、俺は愛想笑いを顔に浮かべた。実際のところ、必死なのだけれども。