「どう? それでもやめない? やめるよね?」

「…………」

 岡野が畳み掛けるように言ったが、俺は返す言葉がなかった。うまく頭が回らないのと、いま言葉を発すると、声が震えちまいそうで。

「そんなにショックなの? って事は、間に合ってないじゃん。あんた、からかわれてるんだよ。怒るところじゃないの?」

 怒るところ、かあ。そうかもしれないが、今は考えられないや。頭痛もしてきたし、早く帰って眠りてえ……

「黒幕は速水くんだと思う」

 隣の上原がボソッと言い、俺はゆっくり横を向いた。チョコパフェは、いつのまにか完食したらしい。

「私もそう思う」

 すこし遅れて岡野が同調した。そして2人は、顔を付き合わせて話し始め、俺はそれに耳を傾けた。

「でも、三浦くんをからかう事が目的じゃないと思う」

「え? なんで?」

「速水くんのキャラじゃないから」

「ああ、そうか。それもそうよね。朋美、鋭いじゃん。じゃあ、何が目的なの?」

「わからない」

「そうか。だったら、2人で速水君をとっちめようよ。そう言えば彼、今日はいなかったね?」

 確かに、速水はいなかったな。

「奥さんが風邪気味だからって、急いで帰ったらしいよ」

「ふーん。って事は、桜井さんとデキてるんじゃ、って線はないわね」

 "桜井さん"って聞こえたら、胸がズキンと痛んだ。もう限界。帰ろう。

「悪いけど、俺、帰るわ」

 俺はそう言って立ち上がり、財布から紙幣を出してテーブルに置くと、けつまずかないように気をつけながら、喫茶店を出た。後ろから、岡野か上原か、あるいは2人から「気をつけてね」と言われながら。

 外に出ると、夜風がやけに冷たかった。