「おまえこそおかしいだろう。じゃあなにか、おまえは好きでもない女と付き合ってたのか?」

「まさか。それなりに好きだったさ」

「"それなり"っていうのが気になるなあ。俺が言う"好き"と、おまえのはちょっと違う気がする」

「じゃあ、おまえの"好き"ってどんなだ?」

 そう問えば、田所は「うーん」とか言いながら考える仕草をし、言った。

「相手の事を想うと胸がキューっとなって、別れたりしたら、悲しくて死んじまいたいと思ったり、そういう感情だよ」

 ん?

 ああ、そういうのって、映画やドラマとかで見た事あるな。それって、たしか……

「それって、"恋"というやつじゃないか?」

「お、おお。そういう事さ。わかってんじゃねえか」

「だったら、俺の"好き"とは違うな。俺のは、そういうのじゃない。強いて言えば、"友情"?」

「なるほど。じゃあ聞くが、おまえは友情で女と付き合ってたのか?」

「まあ、そうだな。それプラス、生理的欲求? って、恥ずかしい事言わせるなよ」

 思わず恥ずかしい事を言ったが、女って触り心地がいいからな。実際のところ。

「それは俺にも分かるが、話を戻すと、恋した事はないのか?」

「俺か?」

「ああ」

 恋というものが、田所が言ったような、胸がキューっとなるようなものだとすると……

「ないな」

「一度もか?」

「一度もだ」

 そう俺が言うと、田所はしばらく呆然としたかと思うと、

「珍しい奴だな」

 と呟いた。