俺たちは社員食堂でささっと昼飯を済ませ、社屋内にある喫茶店へ入った。

 コーヒーをひと口すすり、カップをカチャっと皿に戻し、「昨日なんだけどさ……」と俺が口を開くと、

「上原から聞いたよ」

 と田所は言い、ニヤッと笑った。

「ああ、そうだよな」

「上原のやつ、カンカンだったぞ」

「はあ? なんで?」

 上原の事はまったく頭になく、ましてや、なぜ彼女が怒るのか、俺には見当も付かなかった。

「なんでって、それマジで言ってんのか?」

「マジだけど?」

 俺がそう返すと、田所は俺をジーっと見て、フッと笑った。その瞬間、昨夜桜井ふゆみもフッと笑ったのを思い出した。"せいぜい頑張ってみれば?"と言って。

「おまえって本当に鈍感なんだな。あるいは天然か?」

「なんだよ、それは……」

「もし、その"ラブゲーム"とかいうのが広く知られたら、社内中の女子どもが怒ると思うぞ。岡野も、かもな」

「社内中って、大げさだなあ」

 ちなみに岡野というのは、やはり俺たちの同期で、フルネームは岡野香純。広告部の営業を担当していて、昨夜は出張してたそうで、田所と同じく欠席だった。

「そんな事よりさ、話を聞いてくれないかな?」

 俺は時間がもったいないから、すぐに話を始めたかった。もちろん、桜井ふゆみの件を。というか、どうすれば彼女を落とせるのかを……