彼は、人生をうまく生きていると思っている。

たまに、苦笑いをされながら図々しいとか、厚かましいとか言われる事はある。が、それらは彼のやや強引な態度に辟易したから、というわけではなくてむしろそれがプラスに働くことを知っているから出る言葉なのだと理解している。実際、そういう立ち回りは彼の内面や周りの環境などともあっていてなかなか上手く作用しているのだ。

そしてそういう態度は得てして警戒心を抱かれにくい。豪胆な雰囲気が隠していることなど何もないように見せるからだった。

昨日、偶々入ったバーで出会ったアジア系の女性にも警戒心は抱かれなかった。朝起きて見知らぬ男がいるというのに、平然とソファで寛ぐ様子は、彼女の危機管理能力の欠如から来ている可能性もあったが。



昨晩のバーでナオミ、と名乗った彼女はクリスチャンなのよ、と言った。流暢なアメリカ英語で、彼の話すクイーンズイングリッシュも酔っているのにきちんと聞き取る。しかしそれにしては顔つきに特徴があって、おそらくどこかのアジア系の二、三世辺りなのだろうと思っていた。

バーの閉店後、フラフラした彼女に肩を貸すようにしてタクシーに乗せ、彼は彼女のアパートメントに向かった。

ただ送るだけのつもりだったが、タクシーの中で寝始めたので、仕方なく家の中まで付き添った。ドアを開け、そのまま奥に入ろうとすると、ナオミは据わった目で、足元を指差した。それに従って足元を見るが、カーペットの敷かれた床には何もない。
彼が意図がわからず固まっていると、彼女はおもむろに靴を脱ぎ始めた。そして慣れた手つきで脇にあったチェストにしまう。それが済むと、ナオミは覚束ない足取りでフラフラと一人奥に行ってしまった。

このまま帰ろうかと思ったが、すぐ何かを落とす音が聞こえ、それから動く気配がしなくなったので、慌てて靴を脱ぎ、奥へ入った。

みれば、割れた瓶と液体が床に広がり、ナオミは座り込んだまま眠っていた。世話がやける女だと悪態をつきながらも、瓶を回収し、床を綺麗にしてしまうのは長男の性であろう。

ナオミも回収し、細い体を横向きに抱えながらベッドルームを探した。やけに広い家は、ベッドのサイズも大きかった。彼の家のクイーンよりも大きいからキングサイズだろう。

そこにナオミを寝かしつけようとすると、彼女は彼の腕に手を巻きつけた。

目を閉じたまま、腕を絡め、強く引く。

思い寄らず彼女を押し倒す体勢になった彼は、ふとバーテンの言っていたことを思い出した。