「不思議な方ですね、あなたは」

珀斗の目元がふっとやわらぐ。


「白の宮様、今でも撫子の姫様の邸に行かれているのですか?」


「年老いた女房たちだけが残っております。いずれ髪をおろして尼になる心づもりのようですが。
亡き人の思い出語りができる相手も、少なくなりましたねえ」


「他の宮樣方はご存知なのでしょうか」
図々しいことを承知で問うた。


「うすうす気づいてはいるでしょうね。誰もなにも言ってはきませんが」


誰も亡き人の想いを冒涜するような真似はしない。


今日は白虎もご挨拶をしたいようだ、そうつぶやくと珀斗のうちから、白虎が姿をあらわした。


白銀にうっすらと黒の縞の毛並みをもつ、堂々たる虎の姿。炯々と光る眼。
上顎から長く鋭い犬歯がのびる。そうしてその背には、透きとおる二枚の翅。