黒仙花、と昴は短く告げた。
黒仙花は、かづらの手で生けられ、二階棚に飾られた。
「そうだ、姫様。せっかくですもの、髪に挿されませんか」
花を眺めて、かづらがそんなことを言い出した。
この国の女性には、花挿し(かざし)といって、季節の花を髪に飾る習慣がある。
耳のところで、丁寧に飾り紐で結わえてもらうと、我ながらなかなかと思えた。
そんなところに、蘇芳の渡りを告げる、前触れの声が響いたのである。
「突然といえば突然な」
かづらが慌てて、迎えの采配をする。
宮中に宿直(とのい)していたのか、と戸惑いながら思う。
皇子たちは、都にそれぞれ広壮な私邸を持ちながら、宮中にも宿直所(とのいどころ)を与えられている。
もしやと胸にきざす思いがある。
昴の訪いを知ったからだろうか。
機嫌を損ねていても、異母弟が常寧殿を訪れたと聞けば、じっとしていられないのだろう。
黒仙花は、かづらの手で生けられ、二階棚に飾られた。
「そうだ、姫様。せっかくですもの、髪に挿されませんか」
花を眺めて、かづらがそんなことを言い出した。
この国の女性には、花挿し(かざし)といって、季節の花を髪に飾る習慣がある。
耳のところで、丁寧に飾り紐で結わえてもらうと、我ながらなかなかと思えた。
そんなところに、蘇芳の渡りを告げる、前触れの声が響いたのである。
「突然といえば突然な」
かづらが慌てて、迎えの采配をする。
宮中に宿直(とのい)していたのか、と戸惑いながら思う。
皇子たちは、都にそれぞれ広壮な私邸を持ちながら、宮中にも宿直所(とのいどころ)を与えられている。
もしやと胸にきざす思いがある。
昴の訪いを知ったからだろうか。
機嫌を損ねていても、異母弟が常寧殿を訪れたと聞けば、じっとしていられないのだろう。



![he said , she said[完結編]](https://www.no-ichigo.jp/img/book-cover/1737557-thumb.jpg?t=20250401005900)