「わが帝がおましになる内裏に、いかに日嗣の皇子と申せ、供の者もつけず前触れもなく降り立つとは、いかがなものか。私邸と勝手が違いますれば」


「番(つがい)は、この国を統べる一族のみ持つことが能う神聖なるもの。飾りではない。門は唯人のために開かれ、番の力はそれを超えて存在すると考える」


「わが帝の頭上をも超える、と仰せでござりますか」
左大臣、長伴 逆は言いつのる。


「——主上はどうお考えでいらっしゃる?」
白い直衣をまとった珀斗(はくと)が、御簾の奥に座す帝に水をむける。


一同の視線が集まるなか、帝はさながら大きな男雛のごとくだ。微動だにせず、しばしあって、ようやく一言、
「———左様にはからうがよい」


蘇芳の目に、険が走る。
珀斗がぱた、と手にした檜扇で自分の顔をあおいだ。