「……どうして、こんな、」

「大丈夫、貴女は何も悪くない」


どうしてこんな結末に、私とあなたはいるのだろう。どうしてあなたはそんなにも、優しく笑ってみせるのだろう。私を許してしまうのだろう。


゙全てはシナリオ通りなのだから゙


そんな悲しいことを、どうして、そんな穏やかな微笑みの中に溶かしてしまえるのだろう。こんな悲劇なんて塗り替えて、二人は幸せになれるんだって、どうして、いつもみたいに抱きしめて、そう言ってくれないのだろう。

鋭いペン先が肌を殴って、緩やかに終わりを紡ぐ音がする。私の意思とは反対に、どこかの誰かが、引き金を引かせる音がする。震えた指で無理矢理に、

あなたを殺める音がする。


「……泣かないでください、貴女が好きです」


紡がれた言葉が銃声と共に血溜まりに溶けて、あなたのいない世界の始まりを告げる鐘が鳴った。あなたの瞳から、ゆっくりと、ゆっくりと色が失われてゆく。

どこか遠くで、悪夢が終わった。


はじめからわかっていたけれど、それでも、どうか、と願わずにはいられなかった。泣いて喚いて声を枯らしても消えない感情の名前は、きっとこの物語で唯一の、混じりけのない“いとしさ”だった。

薄っぺらなこの身体の中で、ノートの隅に綴られた、走り書きのような物語の中できっと、きっとそれだけが本物だった。


動くことすら出来ないままで、目覚めないあなたに寄り添うことも出来ないままで、残された私の台詞は、ひとつだけ。


『さようなら (――愛しい人)』


次のページに、あなたはいない。




【来世はおとぎで出逢いたい】

(ありきたりなシナリオ。容疑者Aと被害者Bの悲劇)