敦紀はまるで商品でも返品するかのように、あっさりと言った。

 そのとき初めて知った。私は彼にとってたったひとりの女性じゃなかったんだ。っていうか、二番目だったのか三番目だったのかさえもわからなかった。そもそも私みたいな地味な女を、彼のような大きな出版社のイケメン営業員が本気で相手にするはずなかったんだ。

 もう三ヵ月も前のことなのに。いい加減、忘れなくちゃ。

 ふう、とため息をついたとき、店長さんが言った。

「このチキン、売れそうにないねぇ。よかったら東さん、持って帰って食べる?」

 私は五本入りのチキンボックスを見た。ひとりで食べるには多いけど、冷蔵庫に入れれば、明日になっても食べられるだろう。

「いいんですか?」
「ああ、今日、がんばってくれたから」
「ありがとうございます」

 私が言ったとき、店の前にひとりの男性が走って来た。二十代後半くらいの彼が、息を切らせ、肩を上下させながら言う。

「あ、よかった。チキン、まだあった! すみません、それください!」
「あー、悪いね。これは売り物じゃないんだ」

 店長さんが言った。

 そんな。このお客さんはほんの一瞬遅かっただけなのに。