店長さんが気の毒そうに私の名字をつぶやいた。

 そう。私は二ヵ月前まで駅前の書店で働いていた。けれど、この不況とオンライン書店の進出に加えて、この街の人口減少が痛手となって、地域で三十年愛されてきた書店も閉店することになったのだ。そうして就職二年目に私は失業した。

 しんみりとしかけたとき、店の前に男の子連れの母親が立った。

「あ、よかったわ。この店、まだチキン残ってる」

 母親の言葉に、四歳くらいの男の子がうれしそうに笑った。

「よかったぁ。これでパパも喜ぶね」
「そうね。すみません、ひとつください」

 母親の声に、私はチキンボックスをひとつ取り上げ、ビニール袋に入れる。

「ありがとうございます」

 お札を受け取ってお釣りを返し、「楽しいクリスマスを!」と言ってふたりの姿を見送った。

(家族でクリスマスか……)

 私もいつか敦紀(あつき)と彼との子どもとツリーを飾り付けたり、チキンやケーキを食べたりするんだろうなって思ってたのに……。

『ごめん、会社の後輩に〝私以外の女と手を切って〟って言われたから、別れてくれる?』