夜闇に咲く



日和は総司と一緒に屯所に帰ってきた。
屯所の前には土方さんが待ち構えていた、そして日和はこっぴどく叱られたのだった

え?何故総司は叱られないのかって?

それは僕と入れ違いに出ていって土方さんに頼まれて僕を連れ戻しに来たからだよ。

なんてこった。


「さぁ、日和」


そして今僕たちは自室にて向かい合っている。


「もっと君のことを教えて?」









───事の発端は数十分前に遡る。






土方さんに叱られ終わった僕は総司と共に部屋に戻った

「日和。君に聞きたいことがあるんだ」

部屋に入って唐突に総司がそう言ったのだ

「?……何?」
「日和はどこで禍罪の事を知ったの?」

そう聞く総司の目は真剣で、鋭かった


「禍罪の事は、昨日の夜初めて知って、龍馬が」

またあいつか、そう言って舌打ちをした総司は何かに焦っているのか、何故かイライラしていた

「じゃあ禍罪の事を知って京に来た訳じゃ無いんだね?」
「うん……、」

まずそんな人じゃ無いものが闊歩している町だって知ってたら近づいてないからね。


「はっ、なら安心した。もしそれを知っててきてるんだったら長州か薩摩の間者としか思えないからね。……こんな国の上層部しか知らない事。」



総司はそう言って爆弾発言を落としてきた

「そ、そうだね……」


ま、まだ疑ってたんだ。そっか、総司さんまだ疑ってらしたのね。


はは……と乾いた笑いしかでない日和に総司はまだまだだよと言わんばかりに追求する

「この京の町に来る前まではどこにいたの?一君はあの大きな木から飛び降りてきたって言ってたからあの山の向こうから来たの?この京の町にいたって事はないでしょう?」

「……ひぇ……」

総司は満面の笑みで僕を攻めながらどんどん近づいてきた



そして冒頭へ戻る


近づいてきた総司から距離を取るように後ろへ下がっているうちに着物の裾で滑ってしまった

「いでっ」
「で、日和、君はどこから来たのさ」


床に頭を打って頭を抑えた日和に影がかかる

「いっ……っ!?!?」

総司は日和に覆いかぶさるようにして床に手をついていた

「言わないと……そうだなぁ、最近は何もないし、君でもいいけどなぁ」

何がいいんだ?何が何もないんだ?言わないとなんなんだ!?その手はなんだ総司!!!

総司はあろうかとか日和の腰紐に手をやったのだ




───昔男所帯の新撰組では衆道であった者もいたという……


って、


「いやっ、ちょ、待って待って、早まらないで!!」



男の気があるのは構わないけどあいにく僕は女だ。しかもここは女人禁制。それに加えてバレるのが総司だなんてなったら……!


「え、東きょ……っ江戸!!」

腰紐にある総司の手を掴みながら日和は叫ぶ

だがそんな日和を笑うように総司は言った

「江戸はあの山の向こうからじゃ行けないよ?日和?」


そして僕の背けた顔の目の前にドスッと手をつくと顔を耳に近づけてきた

「ほんとのこと言わなくていいの……?本当にしちゃうよ?」


何をですかと聞く勇気もなく日和が涙目になった時だった


「総司ー、太刀川ー、飯だ飯ー……ってほぇ?」

ガラッと襖を開けて見えたのは口を開けて間抜け面してる平助だった

「平助っ!た、たすけ」
「お前ら仲悪いと思ったら……っっ!!そんな、そんなぁっ、佐之さん!!!!しんぱっつぁぁぁあん!!!」

バシィンっ!!!と盛大に音を立てながら襖は閉められていった




唖然とする日和



側から見ると着物を脱がされそうになってるのに被さってキスしてるように見えたんだろうなうん角度の問題だよねうんうん……


そこまで考えてまた泣きそうになる


「……やれやれ、まったくそんな泣きそうな顔しないでよ……乙女みたいな反応してさ」


「乙女だもん!!!……あ」


これはやばい、自分からバラしに行ったやつだ。
おわった。


「まぁそんなことだろうと思ったよ慣れてないのバレバレ。」

「……ん??」


そこ??

「え、総司……僕が、女っ……て、」


それを聞いて総司は一瞬ぽかんとしてすぐあぁ、と言った
「なに、まさか自分が女だって気づかれてないとでも思ったの?」
「え?気づかれてたの?」








どうやら、もう手合わせしてる時点で気づいていたらしい。

「はぁ、なんだ、だからか、僕がここで着替えればって言ったのも、あれから遅く起きるようにしてあげてるのも、気づいてないと思われてたんだ」


え、え?

「どういうこと?」

日和が混乱する脳みそを叱咤して聞く

「だから、恥ずかしがるだろうなと思って着替えを進めたらなぜか目の前で着替え始めるし、朝も僕が起きてるのに平然と着替え始めるし、……正直この子は羞恥心が欠如していると思ったね」


……これ、

…………これって、


「ぜ、全部、全部わざとだったの!?!?見てたってこと!?!?」

「見せられた、の間違いでしょ。いや、だけど今の反応で羞恥心はあるようだから安心したよ」

そう平然と言ってのける総司に、急に怒りと羞恥心が湧き上がる

顔と目に熱が集まるのを感じた

「さ、さいってー!!!」


解けかかっている帯を握りしめ、襖を開けて外に出ようとする
「ちょっと待ってよどこ行くのそんな格好で。襲われたいの?」

総司は素早く立ち上がって後ろから僕を引き止めた

これ、いわゆるバックハグ……


日和は今自分が経験していることに思考回路がショートした

「……はい。帯直して髪も結って、その顔は……どうしようもないか、僕の所為だしね」

日和の体をくるっと反転させ、帯を結び直して、はいこれで大丈夫、と言う総司にどうしてやろうかと思いながら困り果て、見上げた

……だって、こんな風に、こんな風に心が乱されたのは初めてだから。

「……そんな顔しちゃだめ。ほら、平助に変なこと言われないうちに食堂へ行こう、早く食べないと禍罪が出る時間帯になるよ」




総司は僕をそう促して食堂へ向かったのだった