「おーさわー、おーさわ!」

枕元にいる誰かが、大きな声で私を呼んでいる。

「起きろー! おーさわー!」

男の人の声!?
パッと目を開けると、目の前に水嶋さんの顔があった。

「うわっ!」

慌てて飛び起きると、水嶋さんに思い切り頭突きをしてしまった。
ごちん、と派手な音がなる。

「いてっ! お前、漫画みたいなことすんなよ」

「す、すみません」

見慣れない部屋、見慣れない布団、そして水嶋さん。
一瞬で全てを思い出す。

「ていうか、勝手に入らないでください!」

「あ? 今、何時だと思ってんの?」

「……何時ですか?」

「七時半」

「す、すみません」

「なんのために昨日、起きる時間を聞いてきたわけ? てっきり起こしてくれるんだと思ってたんだけど」

「そのつもりだったんですけど……」

「よく人んちでこれだけ寝れるよなぁ」

感心しているのか、あきれているのか、よくわからないけど、水嶋さんは真顔で私を見下ろしている。

自分でも信じられない。
初対面の、しかも男の人の家でこんなにぐっすり眠ってしまう自分が。

「大澤って、ハムスターみたい」

落ち込んでいたら、水嶋さんがこらえきれない様子で吹き出した。

「えっ?」

「言われたことない? ちっさくてちょこちょこしてるとことか、丸い目とか、リアクションがなんかハムスターっぽくて面白い。さっきも丸まって寝てて、ハムスターみたいだった」

確かに、たまに言われる。
びっくりしたり喜んだりの喜怒哀楽が分かりやすくて、まるでハムスターを観察しているみたいだって。

「もしかして、夜中(よるじゅう)回し車で走ってた?」

あり得るなよなぁ、と、笑いながら水嶋さんは部屋を出ていく。

「走ってませんよ!」

言い返しながら部屋を出ると、ダイニングテーブルの上には、トーストにコーヒー、それにヨーグルトといった簡単な朝ごはんがもう用意されている。

「す、すみません」

朝から私、何回謝っているんだろう。
明日は絶対、今日よりも早く起きて朝ごはんの準備をしようと心に誓いながら、水嶋さんの向かいに座った。