デスクに戻ってふと置きっぱなしにしていたスマホを見ると、着信があったことを示すライトが点滅していた。
手に取って見てみると『夏生』の文字が浮かぶ。
その文字を見ただけで、鼻の奥がつんとした。
……どうして。
あの女の人といるはずの夏生から、どうして着信が残っているんだろう。
時間を見ると、ついさっきだ。
スマホに表示された『夏生』の文字を、しばらく見つめてから、席を立った。
部署を出て階段まで来ると、周りに誰もいないことを確認して、リダイヤルボタンを押す。
一瞬、指が震えた。
『あ、しずく?』
ワンコールで夏生はでた。
その声を聞いただけで、涙が出そうになる。
『……もしもし?』
「ごめん……電話、くれてたから」
『仕事、いつ頃終わる?』
「……どうして?」
仕事は終わろうと思えばいつでも終われる。
家にいたくないからしているだけのことだ。
それより、どうしてそんなことを聞くのか気になった。
『終わったらこっちに来れないかなって思って』
「え?」
思いがけない言葉がスマホから聞こえてきて、理解するのに少し時間がかかった。
『一緒に飲んでる人が、しずくも呼んで欲しいっていうからさ』
言い訳みたいに、夏生は早口で付け加える。
しずくも呼んで欲しい……?
あの女の人が?
「え? ど、どうしてそんなこと……」
こわい。
いやだ。
行きたくない。
『しずくと話がしたいんだって』
夏生はそう言ってくすくすと笑った。
その声に緊張感がまったく感じられないことが、不思議だった。
『いつ頃終わる? 迎えにいくから』
「……もう終わるよ」
今、逃げたところで、相手はあきらめないだろう。
どんな話であれ、逃げていても仕方がないのかもしれない。
私は目を閉じてそう答えた。
手に取って見てみると『夏生』の文字が浮かぶ。
その文字を見ただけで、鼻の奥がつんとした。
……どうして。
あの女の人といるはずの夏生から、どうして着信が残っているんだろう。
時間を見ると、ついさっきだ。
スマホに表示された『夏生』の文字を、しばらく見つめてから、席を立った。
部署を出て階段まで来ると、周りに誰もいないことを確認して、リダイヤルボタンを押す。
一瞬、指が震えた。
『あ、しずく?』
ワンコールで夏生はでた。
その声を聞いただけで、涙が出そうになる。
『……もしもし?』
「ごめん……電話、くれてたから」
『仕事、いつ頃終わる?』
「……どうして?」
仕事は終わろうと思えばいつでも終われる。
家にいたくないからしているだけのことだ。
それより、どうしてそんなことを聞くのか気になった。
『終わったらこっちに来れないかなって思って』
「え?」
思いがけない言葉がスマホから聞こえてきて、理解するのに少し時間がかかった。
『一緒に飲んでる人が、しずくも呼んで欲しいっていうからさ』
言い訳みたいに、夏生は早口で付け加える。
しずくも呼んで欲しい……?
あの女の人が?
「え? ど、どうしてそんなこと……」
こわい。
いやだ。
行きたくない。
『しずくと話がしたいんだって』
夏生はそう言ってくすくすと笑った。
その声に緊張感がまったく感じられないことが、不思議だった。
『いつ頃終わる? 迎えにいくから』
「……もう終わるよ」
今、逃げたところで、相手はあきらめないだろう。
どんな話であれ、逃げていても仕方がないのかもしれない。
私は目を閉じてそう答えた。


