──あの時の事は、昨日の事のように覚えている
「芽衣子、娘の華よ」
華の母親であたしの姉さんが紹介した小さな女の子
当時、あたしは中学生で華は五歳に満たない年齢だった
姉さんの旦那であたしの義兄に抱っこされて恥ずかしそうにしている華を見て、あたしは何とも言えない感情が巡っていた
大好きな姉さんが幸せそうで嬉しいと大好きな姉さんが取られて寂しいがごちゃ混ぜになっていた
華はどちらかというと義兄に似ている
姉さんに似ているのは髪の色と目の形だけ
「ほら、華。 自己紹介しなさい」
「やぁ~」
「もう、華ったら……。 芽衣子、ごめんね」
そんな会話だけでも姉さんの幸福が伝わってくる
それから姉さん一家が家に来る度にあたしは華の遊び相手になった
最初は恥ずかしがっていた華も心を開いてくるようになった
姉さん一家は常に笑顔に溢れていた
つられてあたしも笑顔になった
姉さんが家を出てから楽しい事なんて家にも学校にもなかったのに、笑えた
毎日が楽しくなった
きっとこれからも姉さん一家は幸せに過ごせるだろうとこの時は信じて疑わなかった
──だが、この幸せは長くは続かなかった