好きやった。



……嫌になるよ。

こんなときに限って思い出してしまうんやから。月島があの子を抱き締めたときの話を。

聞かされた話の記憶の断片と、今の自分の状況を比較してしまう。

このぬくもりであの子のことを優しく包み込んだんやなって思うと、切なくなる。好きな人に抱き締められているというのに、泣きたくなる。

ドキドキと高鳴っていた胸が……ずきずきと痛みを訴えてくるんだ。


「嫌や、離さん。離したら井ノ原、俺から逃げるやんか」


どうにかして離れようと試みているウチとは逆に、月島は離さまいとさらに腕に力をこめてきた。

痛い。すっごい痛い。

身体も心も悲鳴を上げていて、その痛みに耐えるようにぎゅっと目を閉じた。

月島の背中に腕を回したい衝動に駆られるけど、ウチが羨ましくて仕方がないあの子の顔を思い出して、すんでのところで思い留まった。

胸板を押していた手を握りしめる。


「……逃げやんから、離してよ」

「嘘つけ。昨日、さっさと逃げたやんか。今日まで逃げられたら困る」

「そうやけど……」


そんなこと言うけど、別に追いかけたりもしてくれやんだやん。

ひねくれた心で、拳をとんっと月島にぶつけた。


「月島……彼女が待っとるやろ? こんなことしとる場合とちゃうやん。長いこと待たせて、彼女と喧嘩にでもなったらどうすんの? 嫌われたら困るやろ?」


あの子は今日だって、健気に月島を待っているだろう。大好きなアンタが来てくれる瞬間を待ちわびているはずだ。

月島だってあの子のこと大好きなんだから、早く行ったりなよ。

早くウチじゃなくて……あの子のもとに行って抱き締めてあげやな。