目を覚ますとポカポカ暖かい日差しがカーテンの隙間から溢れている。

また今年もこの季節がやって来た。…俺は嫌いだ。
桜の咲くこの季節が…



32年前……

今日は俺の高校の入学式、友達は母親と一緒に高校の門を嬉しそうにくぐる。なかには両親揃って入学式に参列している人もいる。
だが俺はひとり…
親が入学式に参列してくれないから寂しいなんて言う歳でもない。
入学式を終え家に帰ると玄関に女性物の靴と小さな靴があった。

「来客か?」

リビングからは楽しそうな父と女性の声、それに混じって子供の笑い声…
リビングの扉を開けるとソファーに座る父の横には知らない若い女性。そして小さな男の子がリビングを走り回っている。

誰だ?…

「辰次郎、帰った来たか。紹介する篤子と崇仁だ!今日からここで一緒暮らす」

「篤子です。辰次郎君宜しくね。ほら、たか君お兄ちゃんにご挨拶は」

「おにいちゃん、こんにちは」と小さな頭を下げ「パパー」と親父の膝の上に行く。

親父はその子に優しい眼差しを向ける。俺の見たことのない眼差しを…

パパ?
なんだ?!親父は何を言ってるんだ?一緒に暮らすとか意味がわからない。

眉間にシワを寄せて父を睨む。

「親父、話が見えない。分かるように説明してくれないか?」

「お前の新しいお母さんと弟だよ」

お母さんと弟……

俺の母さんは去年亡くなった。
昔から体が弱く入退院をくれ返していたが去年4月2日入院先の病院でなくなった。
俺の高校の制服姿が見たいと楽しみにしていたが……

「どういう事だ?!」

「崇仁も来年は幼稚園に入るからなそろそろ一緒に暮らしたほうが良いと思ってな」

そろそろ?……
母さんが生きていた時から付き合っていたのか?

親父は母さんを愛してると思って居た。
仕事が忙しい親父だが月に一度は入院していた母さんに会いに行っていた。
俺が見舞いに行くと花が好きだった母さんは親父が持って来てくれる花を楽しみにしていた。
『今度は彼、どんなお花を持って来てくれるかしら?』と本当に楽しみにしていた。
それなのに親父はずっと母さんを騙していたのか?……