会社の駐車場に着いた。
残っている車はまばらだ。
三神くんの車の脇に横付けする。
「それじゃ、お疲れ様」
私が言うと、三神くんがシートベルトを外しながら言った。
「ここで、あいつに、キスされたの?」
静かな、低い声だった。
今までのユルい空気から一転。
密度が濃くなり、息苦しい。
この人の、こんなふうに雰囲気をコントロールする力、半端じゃない。
気圧され、動揺してしまう。
「え、と……だから、それは、ほっぺただから……」
「どっちのほっぺた?」
左ですが。
言わないほうがいいな、これ。
「お、覚えてない、かな……?」
「ふぅん」
これはアレだな。顔を見ちゃいけないパターンだ。
私はハンドルのエンブレムを凝視する。
自分の心臓がけたたましく鳴り響いている。
いつまで続くの、これ。
降りるのは向こうだし。
早く降りて、を上手く伝えられる方法はないものか。
落ち着け、自分。
「こっち?」
わっ。
左頬に、触られた。
「えっと。どうだったかな……?」
前を向いたまま、とぼける。
「じゃあ、こっち?」
右頬に、手が伸びて。
両頬を触られて、首をくるっと曲げられる。
三神くんに顔が向かう。
