あれから、いつも通りの毎日を送れてる。
奏とも普通に話せてるし、嫌な事が頭をよぎる事もなかった。
「純怜、聞いてる?」
それはあの時、いろんな事を話してくれたばあちゃんのおかげで…。
…コンクールに向けての練習で、考える余裕がないのも一理あるかもだけど、ね。
「おーい、純怜〜!」
それにしても、コンクールまであと一ヶ月きっちゃったよー!
やばいけどやばくない。
うん、大丈夫。
「いったぁーーーっ!!」
え、なになに、このおでこに走る痛みはっ!
頭蓋骨に響いて痛いじゃんかっ!
「純怜、私達の話、聞いてた?」
疑うように覗いてくる樹音を見て、今の状況が頭に入ってくる。
あ…、私完全に、
「聞いてなかったのね…。」
華菜が憐れみながら代弁してくれた。
…すみません。
っていうか、
「楽譜の背表紙でおでこゴツンはないでしょ!」
コツンじゃないのよ。
私が机の横に置いてた、ベートーベンのピアノソナタの楽譜でゴツンよ『ゴ』ツン!
かなり分厚いんだから勘弁してよ!
ってかゴツンするほうもしにくいんじゃないの?
両手で持たなきゃ出来ないくらいの厚さじゃん。
そもそも、楽譜で叩くってどうよ。
ベトベンに失礼だー!
謝れー!
「なんであんなに騒いでたのに急に気飛ばせるの?」
「いや、今は飛ばしてなかったー!!
ただ、ベトベンに謝れーって思ってただけ!」
「「はぁ…。。。」」
うぅ。
2人同時に溜息をつかれるとキツイものがある。
「人の話聞いてなかったお前が謝れ。」
…ごもっともです。
って
「奏?」
それに根崎と宮田も?
''よっ''と片手を挙げる2人。
「何で?」
「「そんなに前から気飛ばしてたのね…。」」
落ち込んでゆく華菜と樹音。
何だか悪いことしちゃったかな…?
「まぁいいわっ!!」
「え?」
「そうよっ!今に始まったことじゃないし!」
「はい?」
「「純怜の扱いには慣れてるしっ!!」」
絶妙にハモりながら変なこというなー!!
隣でクツクツと片手で口元を押さえながら笑う奏。
いや、奏くん、笑ってるのバレバレなんですけど。
むしろ、その笑い方ムカつく。
ムカつく笑い方なのに、顔が整っているせいで、一層かっこよさが引き立っているのにもムカつく。
とは言えない。
まぁいいや。
「それで、何の話だったの?」
あ、しまった。
聞き方いけなかったぁーーーー!!
「「はい?」」
う''。
やっぱり、そうなるよねぇ〜。
胸の前で腕を組んだ2人が、微笑みをたたえて若干睨んでくる。
…モナリザ…。
おっと、また気飛ばしそうになってた。
危ない危ない。
「華菜さん樹音さん。
お願いですから、何を話してたのか教えてください。」
「最初からそう聞けばいいのよ。」
満足そうな樹音に相槌を打つ華菜。
それに笑う男ども。
くっそムカつくゥ〜!!
耐えろ、私。

