「朋樹……」


俺は名前を呼ぶ。


乱暴な性格で愛奈と喧嘩ばかりしていた口の悪い奴が、まさかこんなことになっているなんて……。


俺は石にひっかかっている朋樹の服に手を触れた。


ここから連れ出してやりたいが、俺の手はやはり朋樹の服をすり抜けてしまった。


それでも懸命に朋樹へと手を伸ばす。


両手で朋樹の体を抱きしめるようにして引っ張る。


俺の手は朋樹の体をすり抜ける。


また手を伸ばし、またすり抜ける。


何度も何度も繰り返しているうちに、いつの間にか俺は泣いていた。


歯を食いしばり、触れることのできない朋樹の体に手を伸ばす。


「朋樹!」


どれだけ強く願っても、俺が朋樹に触れることはなかったのだった。