ほんの少しの距離が、とても長く感じる時間だった。


いつも遠くから見ているだけだった人と、今は肩を並べて歩いている。


それが嬉しくもあり、恥ずかしくもある時間。


なにより、隣にいる彼女はとても美しかった。


透明感のある肌につやのある黒髪。


俺は登校途中何度も彼女に視線を奪われた事がある。


「名前とか、聞いても大丈夫ですか?」


それは彼女からの言葉で、俺の心臓は一気に跳ねあがった。


憧れの彼女と会話ができただけでなく、名前を聞いてもらえるなんて思ってもいなかった。


「俺の名前は……」


ドキドキしながら俺は言う。


その瞬間だった。


全くスピードを落とさず車が走ってくるのが見えた。


思わずその場に立ち止まり、車を見る。


「どうしたんですか?」


俺が立ち止まった事で彼女もその場に立ち止まってしまった。


渡りきるにはもう少し距離がある。


でも、戻るには更に遠くなる。