穂香が電車の窓から出て行って一体どのくらい時間が経過しただろうか。


俺は愛奈の血の匂いがする車内で茫然と立ち尽くしていた。


どして俺はなにも思い出さないんだ?


穂香は俺が純粋だからだと言った。


その意味も、俺にはさっぱりわからなかった。


俺は自分が書いた床の文字に目を向けた。


《1人は助け》


これがきっと、俺の事をさしている言葉になる。


でも、その意味がどう頑張って考えてみてもわからないのだ。


その時だった。


ドシャッ! と何かがぶつかる音が窓の方から聞こえてきて、俺はビクッと身を縮めた。


恐る恐る窓へと視線を向ける。


そこには、折り重なるようにして穂香の体が降ってきていた。


みんな、もう顔も体も原型をとどめていなくて、その服だけで判断するしかない状態だった。


「穂香……」