朋樹の体が窓へと落ちてきた瞬間、あたしの脳裏は真っ白になっていた。


「朋樹……」


震える声で朋樹の名前を呼ぶ。


でも、その返事はもう聞く事もできない。


無意識の状態でよろよろと立ち上がり、朋樹の落ちて来た窓へと近づいていく。


「愛奈……」


穂香があたしを呼んでも聞こえなかった。


あたしは窓にへばりついた朋樹に手を伸ばす。


窓の向こうの朋樹はもう見る影もなく、ただの赤い塊となってしまっていた。


「うそだよね……」


誰にも聞こえないような小さな声でつぶやく。


「朋樹……」


目の前に内臓や肉片が飛び散っているのに、気持ち悪さなんて感じなかった。


ただ、好きだった人がいなくなってしまったという悲しい気持ちで一杯だった。


たった数時間一緒にいただけの口の悪い男だったけれど、会った瞬間からなぜだか懐かしい気持ちになっていた。