きっとこれが最後の別れになる。

僕は努めて明るい声で嘘を言った。


「お前が帰ってくるまでに、食事を作らなきゃならないじゃないか。
今日は僕が食事を作って用意しておくから。楽しんでおいで」

「じゃぁ……後で来てくれる?」


泣くまいと……


決して泣くまいと僕は自分に誓った。


「行くよ。必ず、後で行くから」


僕は母さんの部屋のタンスからストールを取り出し、アリシアに巻いた。


「ジョージ、これ……母さんの!?」

「……今日は寒いから羽織っていくんだ」

「でも、これ……母さんはとても大事なものだから触っちゃダメだって……」

「いいんだよ。母さんもきっと喜んで許してくれるよ。
母さんの形見のロザリオも持っていくんだ。いいね?」

アリシアは小さく頷くと、「ジョージ、いつもと何か違う……」と呟いた。


修道女はアリシアを外へと促すと、何度も何度も振り返るアリシアの手を引いて玄関の扉の向こう側に去って行った。


「立派だったよ、ジョージ。きっといつの日か、君たち兄妹に神の加護が……」


差し伸べられる神父様の手を払い除けた。


「ざっけんな!何が神だよ!神なんかいない!いないんだ!」

「おお……。何と言う……。カトリック教徒にあるまじき暴言を……」


「本当にいるって言うのなら、僕達兄妹をなんで引き離すんだ!
救ってくれるんなら『いつの日か』じゃない!今!今!今、救えよ!!」


僕は神父様を睨みつけた。

溜息を吐いた神父様の説教が始まろうとした時、再度、玄関の扉をノックする音が聞こえた。