「秋田さん。この明細なんだけど、品名が入ってない。それと、作業助手の人夫代もこっちに混ぜてほしい」

「はい。分かりました」

お互いに、パソコンを見たまま、手だけを伸ばして差し出してくる書類を受け取る。
今日の集計作業は、大詰めに入っていた。
カチカチとキーボードを叩く音だけが、二人の間に響いている。

感情に振り回されている暇なんてない。
だけどむしろ、この方がいい。
時間に余裕があっても、なにを話したらよいか分からないから。

あれからデスクに戻った私たちは、山積みになっている納品書と格闘することを再開した。
拓哉も、眼鏡をかけて仕事モードに入っている。

先ほど、営業部の人と出会わなかったならば、どうなっていたのだろうか。
彼はなにを私に伝えたいのか。
……つい、考えてしまうけれど、……今はこのまま仕事に没頭しよう。

今日は佐伯さんと会うのだから、早く拓哉と二人の時間を終わらせたい。
これ以上、余計なことを考えてしまわないように。
あの瞬間は、深い意味なんてなかった。
お互いに懐かしくなっただけだ。
もう、あんなことは起きない。
そう思い込もうとする。


そのまましばらく、会話もせずに二人で必死になって作業を進める。
その甲斐あってか、なんとか大方の目処がつきそうになった。
ようやく私は、作業の手を止めて、軽く伸びをした。
時計を見ると、デスクに戻ってから一時間余りが経過していた。

「はい。これ」

そんな私の腕に、突然なにかがコツンと当たった。