「では、こちらのプランのシュミレーション運搬を、来月にとり行うことと致します」

取引先の工場長に、拓哉はニッコリと笑う。

「いやー、星野さんが担当で進めて下さるなら、こんなに心強いことはないですよ。うちの本社のほうでも、以前担当して下さってましたよね。お噂はかねがね」

工場長が大げさに言うと、拓哉が眉尻を下げて謙遜する。

「いえ。あちらでは、梱包をきちんとして下さり、貨物を丁寧にパレットに載せていただいてましたので、うまく流れに乗れたんです。私どもは特別なことはなにも。今回につきましては、その作業はこちらで請け負うことになります。是非とも、そちらもお任せ下さい」

私は拓哉の隣で、 そんなふたりの会話をじっと聞いていた。
顧客からの絶大なる信頼。
やわらかな物腰の対応。

やはり拓哉は、経営でその手腕を発揮するべきだと、改めて感じていた。


小会議室を出てから、ふたりで外回りに出たが、車中ではひとことも会話をしなかった。
我に返り、熱く溢れ出す情熱が、急速に凍りついたかのようだった。