「もう、忘れないといけないわ。理恵子さんと生きるために。私は拓哉にとって必要ない。……もう、忘れて。あなたが罪を感じなくてもいい。私ができる、最後のことは……拓哉を解放することよ」

……解放。理恵子にも言われた言葉。

俺たちは、お互いを苦しめるために出会ったわけじゃない。
どうして、好きなのに放さなくてはならないのか。

せめて言わせてほしい。
もう、君をこの腕に抱けないのなら。
その笑顔を見てはいられないのならば。

「芹香。……愛してる。誰よりも、なによりも。芹香だけが、好きだ……」

「……信じないわ。拓哉の言葉なんて、なにひとつ……。あなたは嘘つきだから……」

それでいい。
君に捧げるはずの俺の未来を、ほかの人に明け渡そうとしている俺など、信じなくてもいい。

きつく抱きしめ合いながら、お互いに言葉にならない。
今流している涙が、記憶をすべて流してくれたらいいのに。

そんなことを考えながら、彼女をさらにきつく抱きしめ直した。