「そろそろ答えを出してもらえないか。気の短い俺が、五年も待ってやったんだ。どうやら限界みたいでな。早く婚約解消してくれないと、次なる手が打てないんだよ」

冷静に考える。
彼の言う『次なる手』とは、おそらく株の買い戻しだろう。
自信ありげな言い方から察すれば、策はあるとみえる。

「俺は……」

俺が口を開いた瞬間。

「拓哉〜、お待たせ。芹香さんの具合はもういいの?」

弾んだ声がして、皆は一斉に入口の自動ドアを見た。

「風邪なんでしょ。よろけて倒れそうになるなんて、早く病院に行かないと。部下に仕事をさせすぎなんじゃないの?」

理恵子が心配そうな顔をしながら、近づいてくる。

「あの?私は……」

俺たちは、状況が読めずに固まった。
それを気にする素振りもなく、理恵子が俺の腕にしがみつき、黒田社長のほうを見た。

「都合のいい勘違いはしないでください。拓哉は、よろけそうになった芹香さんを支えただけよ」